二年前、テレビのバラエティ番組を見ていると、北海道、礼文島の三井観光ホテルの横に住むおばあさんの事が紹介されていた。おばあさんは、海で拾ってきた貝でストラップを作り、家の二階の窓から観光客を見かけると、「これを持っていきなさい」とストラッ…

平安時代

倭歌(やまとうた)は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、心に、思ふことを、見るも聞くものにつけて、言ひ出だせるなり。花に鳴く鶯、水に住むかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか…

熊野灘

一昨年の十一月、ふと小金井市の江戸東京たてもの園に出かけた。ちょうど特別展「ジブリの立体建造物展」が開催中で、ジブリ作品のイメージボードや背景画を楽しんだ。展示の途中で、展覧会監修者の建築家、藤森照信氏のコメントが貼ってあった。「人間は毎…

死者との交流

三年前、NHKスペシャル『シリーズ東日本大震災 亡き人との“再会”』を見て、大変胸を打たれた。震災で家族を失った人達が、「故人と再会した」体験を語るのだが、その誰もが、大切な人が亡くなった事実に心が囚われているようで、悲しみが切実に伝わってき…

エドワード・モースが日本滞在中に持っていた写真があるのだが、初めてそれを見た時、なぜか、自分の少年期を見ているような「懐かしさ」を感じた。着ているものはもちろん違うのだが、そこに映っている人々の雰囲気が、私の遠い記憶に呼びかける。何かが私…

枢軸時代

私は大学生の時、まともに飯を食べず痩せこけていた。飯代をけちって、毎日本を買っていた。その本も、新品は滅多に買わず、高田馬場駅から大学までの通り沿いにある古本屋でよく買っていた。手元にある『プラトン』(田中美知太郎、一九七八)は定価一七〇…

テレビを見ていると私と同じ名前の中国人が出てきて驚いた。気になってフェイスブックで自分の名前を検索してみると、日本人よりも中国、台湾の人が多く出てくる。日本では同名の人に会ったことはないが、現地では結構メジャーなのだろうか。 私の名は、家族…

自己承認欲求

私が大学を卒業する時に提出した論文のタイトルは、『進化論的アプローチによる自己意識の起源に関する考究』である。「進化心理学」の説を支持しながら、人間の自己意識の成立過程を考察した。「進化心理学」とは、生物の諸器官の成り立ちが、個体と環境の…

無常

今年は日本航空一二三便墜落事故から三十年目である。事故のことを調べていると、生存者の証言記録を見つけた。以下、日本航空アシストパーサーの落合由美さんの証言を引用。「そして、すぐに急降下がはじまったのです。まったくの急降下です。まっさかさま…

センス・オブ・ワンダー

十月六日、スウェーデン王立科学アカデミーは、東京大宇宙線研究所の梶田隆章教授とカナダ・クイーンズ大のアーサー・マクドナルド名誉教授にノーベル物理学賞を授与すると発表した。素粒子ニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動を発見したこ…

日本史1200年区分法

仏教、儒教、道教、それからギリシア哲学といった優れた思想は、地理的に離れた場所であるにも関わらず、ほぼ同時代に起こったとされる。カール・ヤスパースは、その時代を「枢軸時代」と呼んだ。 その頃、日本は縄文から弥生に移る頃で、やっと「社会」とい…

国木田独歩はタナトフォビア(死恐怖症)だった?

ある「体験」 たとえば宇宙に関する本を読んで、その空間的な広がりや、時間単位の途方もなさに、唖然とさせられる。そんな夜に布団の中で考え事をし出すと、ますます目がさえて寝付けない。 広大な宇宙空間の片隅に、ほんの一瞬光って消えるような、儚い自…

映画『百日紅(さるすべり)~Miss HOKUSAI~』 - なぜ阿弥陀仏は人を踏み潰したのか

5月10日(日)に見て参りました。 <a href="http://sarusuberi-movie.com/index01.html" data-mce-href="http://sarusuberi-movie.com/index01.html">映画『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』公式サイト&…

江戸時代まで千年間読まれた道徳の教科書 実語教 全訳

日本人の価値観に深く関わっているとされる教訓書、「実語教」(じつごきょう)を紹介します。「実語教」は平安時代に作られ、約千年間にもわたって読み継がれてきました。特に江戸時代には寺子屋の教科書として使われました。 動画 解説動画を作ってみまし…

これからの働き方

「会社」の時代 歴史を学べば学ぶほど、現代が「会社」というものに支配された特殊な時代だと気づかざるを得ません。人類の歴史において、「会社」というものが広まりだしたのは、ここ百年程の内の出来事なのです。それなのに、私達の人生というのは「会社」…

美しい日本の私は、曖昧ではない

先日、4月16日は川端康成の命日でした。 ふと思い出して、随筆集を買いました。 川端康成随筆集 (岩波文庫) 作者: 川西政明 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2013/12/18 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 4つの章立てのうち、第一章には、ノー…

展覧会「ダブル・インパクト 明治ニッポンの美」ー2つのインパクトは呼応せず、すれ違った

日曜日(4月5日)に、行って参りました。 開国した日本が西洋から受けた衝撃(ウェスタン・インパクト)と、来日した西洋人が日本から受けた衝撃(ジャパニーズ・インパクト)を合わせて、「ダブル・インパクト」ということですが、最初に感想を申しますと…

「卒業式」は日本だけ!?

今週のお題「卒業」 私たちがよく知る「卒業式」が実は日本特有の儀式と知ったのが先月。 海外には無い、らしい。 詳しく知りたいと思っていたところ、良い本に巡り合えた。 その名も「卒業式の歴史学」 卒業式の歴史学 (講談社選書メチエ) 作者: 有本真紀 …